Flongle により迅速かつ低コストで ゲノム異常を検出

乳房腫瘍に特徴的なBCR-ABL1 融合遺伝子から、一部の肝がんで見られる多様なFGFR2 融合遺伝子まで、悪性腫瘍 で融合遺伝子が広範囲にわたる役割を果たしていることが広く認識されています 1 。そのため、多くの腫瘍では融合 遺伝子の検出が診断と治療の主眼となっています。デューク大学医療センター(米国)の Jeck 氏らは、融合遺伝子の 検出方法や評価方法を改善するための方策を探っています 2 。

よく用いられる融合遺伝子の検出方法の 1 つに蛍光in situ ハイブリ ダイゼーション(FISH)があります。これは、比較的素早く結果が 得られるものの、単一の遺伝子ターゲットの検出に限定されます 2 。 また、定量的 RT-PCR では、前もって融合遺伝子パートナーに 関する知見が得られている必要があります 2 。ショートリードシーク エンス技術は多数のターゲットを同時に調査することが可能である 上、多くの場合に融合切断点や融合遺伝子パートナーを特定可能な 精度が得られます。しかし、このようなショートリードシークエンス 検査の採算性には疑問符が付けられています。Jeck 氏らは、「患者 1 名の検査に対するフルシークエンス解析は、ほぼすべての機器で 過剰な検査になってしまう」と述べています。マルチプレックスにより コストは削減されますが、検査の所要時間は大幅に増えることが あります。そして、多くの場合、良い転帰には時間が決定的に重要 になるのです。そこで研究者たちは、Oxford Nanopore 社の Flongle が融合遺伝子の検出に有用であるかどうかを評価しました。 フローセル 1 枚当たりのコストがわずか 90ドルで、よく使用される 方法と比較してコストが大幅に削減されます *。 さらに、融合遺伝子の検出という点で、同チームが採用した Flongle のシークエンスパイプラインを用いて得られた結果は、ショート リードに基づく方法で得られた結果との「一致度が優れて高い」 ことが示されました。また、Flongle は 3.3 kb のタンデムリピート 配列内の異常を検出する上で比較対象のショートリードシークエンス

"Flongle は、1つのサンプルで 融合遺伝子を同定する有望な プラットフォームである2"

技術よりも優れていたことから、ナノポアのロングシークエンスリード の利点が示されています。同チームは、Flongle が「検出が困難で あることで有名な CIC-DUX4 の転座を同定する際に特に強力」で あったと述べています。

flongle-case-study-Figure 1

図 1 ナノポアのロングシークエンスリードを用いた融合遺伝子の検出を 示した図。この画像は Oxford Nanopore Technologies 社の cDNA アプリケーションに関するポスターから引用したもので、ナノポアの ロングリードと、様々な種類のがんと関連があるEWSR1 遺伝子の シークエンスアライメントを示しています。これにより、切断点接合部 と融合遺伝子パートナーの両方を同定することができました。 ポスターの閲覧:nanoporetech.com/poster-cdna-biology

また、Flongle の「ラン当たりの単価の低さ」を活用することにより、 セントジェームス大学病院(英国、リーズ)を拠点とする Watson 氏ら は、リンチ症候群 3 (様々な種類のがんの遺伝的素因の 1 つ)と 関連のあるPMS2 の挿入欠失変異を検出する上でナノポアシーク エンスが示す性能を評価しました。評価対象の変異は、周辺の ゲノム配列が複雑であるためにサンガーシークエンスによる検証は 困難であることが明らかになりました。Watson 氏らは、妥当性 検証済みの基準シークエンスとナノポアリードのコンセンサス配列 のアセンブリをペアワイズ比較し、シークエンス同一性が 100% で あることを示しました。さらに、バイオインフォマティクス解析で 得られた結果の方が、直交法を用いて作成したクロマトグラムよりも はるかに「解釈が容易」でした。Watson 氏らは以上の結果を総合し、 Flongle などのロングリード対応機器が今後、「遺伝診断学に不可欠 なツールになる可能性が高い」と結論しています *。

Flongle flow cell

"2つのケースにおいて、当初 [ショートリード]シークエンス パイプラインでは同定できなかった CIC-DUX4の転座を Flongleでは 同定できました3"

1. Arai, Y. et al. Hepatology. 59, 1427-1434 (2014).

2. Jeck, W., Iafrate, A. and Nardi, V. The Journal of Molecular Diagnostics. 23(5):630-636 (2021).

3. Watson, C. et al. Cancer Genetics. 256-257:122-126 (2021).